「ビザってどうするの?」に
答えを出す
海外で自由に働く生活を調べ始めると、最初にぶつかる壁がビザだ。「観光ビザで働いたら違法じゃないの?」「ノマドビザって聞いたことはあるけど、自分が取れるのか分からない」——この不安は正しい。ビザ制度は国によってまったく違うし、毎年のように改定される。
ただ、2024年以降の流れは明確だ。世界50ヶ国以上がデジタルノマド向けのビザ制度を整備し、選択肢は増え続けている。かつては「ノマド=グレーゾーンで観光ビザ滞在」だったが、今は正規ルートで合法的に滞在しながらリモートワークできる国が揃った。
この記事では、日本人ノマドに特に人気のある6ヶ国のビザ制度を比較する。月収要件、滞在期間、申請費用、家族帯同の可否を一覧にしたうえで、各国の詳細を解説する。最後に「まだビザを取る段階じゃない人」のための観光ビザ運用パターンも扱う。
なお、ビザ要件は頻繁に改定される。本記事の情報は2026年4月時点のもの。申請前には必ず各国の公式サイトまたは大使館で最新情報を確認してほしい。
——また、ほぼすべてのノマドビザには「月収いくら以上」の要件がついてくる。つまり先に必要なのは、どのビザを取るかより、海外から稼げる仕事の形だ。会社員リモート転職からフリーランス、ストック型まで、ノマドとして成立する6タイプの比較は海外で働ける仕事ランキングにまとめている。収入の見通しを先に立ててから、どの国のビザを狙うかを決めると話が早い。
6ヶ国ノマドビザ比較表
まず全体像を掴むための一覧表。月収要件は2026年4月時点の公式基準を日本円換算(1EUR=約165円、1USD=約155円で概算)したもの。為替変動で実額は変わるため、目安として見てほしい。
| 国 | ビザ名称 | 月収要件 | 滞在期間 | 申請費用 | 家族帯同 |
|---|---|---|---|---|---|
| ポルトガル | D8ビザ | 約61万円(€3,680) | 1年→更新可 | 約2.5万円 | 可 |
| スペイン | 国際遠隔就労ビザ | 約46万円(€2,763) | 1〜3年→更新で最長5年 | 約2万円 | 可 |
| エストニア | DNV(デジタルノマドビザ) | 約74万円(€4,500) | 最長1年 | 約1.7万円 | 不可 |
| UAE(ドバイ) | Virtual Working Programme | 約54万円($3,500) | 1年→更新可 | 約17万円(諸費用込) | 可 |
| タイ | DTV(Destination Thailand Visa) | 預金50万THB(約215万円) | 180日+180日延長/5年有効 | 約4.3〜18万円 | 可 |
| インドネシア | B211A | 残高$2,000以上 | 60日→延長で最長180日 | 約0.8〜1.6万円 | 不可 |
見ての通り、月収要件のハードルは国によって大きく異なる。エストニアの月74万円は正直きつい。一方でタイDTVは月収要件ではなく預金残高で審査されるし、インドネシアB211Aは実質的にハードルがほぼない。「自分の今の収入で取れるビザはどれか」という視点で見ると、選択肢は意外と多い。
— Key Insightビザは壁ではなく、入口だ。
制度を知れば、選択肢が見える。
ポルトガル D8ビザ
——欧州ノマドの定番
リスボンはNomad Listで常に上位にランクインする欧州ノマドの聖地。D8ビザは2022年に導入されたデジタルノマド向けの在留許可で、取得すればEU/シェンゲン圏内の移動も自由になる。
申請条件(2026年4月時点)
- 月収要件: ポルトガル最低賃金の4倍 = €3,680/月(約61万円)。配偶者がいる場合は+50%、子ども1人につき+30%
- 資金証明: 銀行口座に過去12ヶ月分の給与実績。残高€11,040以上
- 雇用形態: リモート雇用またはフリーランス。ポルトガル国外の企業/クライアントとの契約を証明
- 健康保険: ポルトガル滞在をカバーする保険
- 無犯罪証明書: 日本の警察証明書
- 宿泊先の証明: 賃貸契約書またはホテル予約
滞在期間と更新
初回は1年間の在留許可。その後2年ごとの更新が可能で、5年間の合法滞在後に永住権の申請資格が得られる。
メリット
シェンゲン圏内を自由に移動できるため、ポルトガルを拠点にスペイン、フランス、イタリアなど欧州各国を回れる。NHR(Non-Habitual Resident)税制の改定が続いているが、D8取得者はポルトガルの税務居住者として一定の優遇を受けられる可能性がある(詳細は税理士に確認を推奨)。
注意点
処理期間が長い。書類準備から在留カード受領まで4〜7ヶ月かかるケースが報告されている。余裕を持ったスケジュールで動くこと。月収61万円のハードルは「欧州で暮らすなら妥当」ではあるが、ノマド初期段階では高い。まず東南アジアで収入基盤を作り、月収が安定してから欧州ビザを検討する、というステップが現実的だ。
スペイン 国際遠隔就労ビザ
——月収ハードルが低めの欧州枠
2023年のスタートアップ法で導入されたスペインのデジタルノマドビザ。欧州のノマドビザの中では月収要件が比較的低く、バルセロナやバレンシアに滞在したい人にとって有力な選択肢になる。
申請条件(2026年4月時点)
- 月収要件: スペイン最低賃金の200% = €2,763/月(約46万円)。扶養家族がいる場合は加算あり(配偶者+75%、追加1人につき+25%)
- 職歴/学歴: 大学卒業証明、職業資格、または3年以上の実務経験のいずれか
- 雇用形態: スペイン国外の企業でのリモート雇用、またはフリーランス。スペインのクライアントからの収入は全体の20%以下であること
- リモートワーク実績: 申請時点で3ヶ月以上のリモートワーク実績
- 健康保険: スペイン滞在をカバーする民間保険
滞在期間と更新
国外の大使館で申請した場合は最長1年。スペイン国内で在留許可として申請した場合は最長3年。更新により最長5年まで延長可能で、その後は長期居住権の申請資格が得られる。
メリット
ポルトガルD8と同じくシェンゲン圏内の移動が自由。月収要件が€2,763とポルトガルより約€900低い。2026年からはW2(正社員)リモートワーカーも対象に含まれるようになり、間口が広がっている。
注意点
導入から日が浅く、領事館ごとに運用が統一されていない事例がまだ報告されている。申請する領事館の最新ガイダンスを事前に確認すること。
エストニア デジタルノマドビザ(DNV)
——電子国家のパイオニア
2020年に世界で初めてデジタルノマドビザを導入したエストニア。e-Residency(電子居住権)とは別の制度で、物理的にエストニアに滞在して働くためのビザだ。
申請条件(2026年4月時点)
- 月収要件: 過去6ヶ月の平均月収が€4,500以上(約74万円)
- 雇用形態: エストニア国外に登記された企業でのリモート雇用、海外クライアントへのフリーランス、または海外法人のオーナー。エストニア企業/クライアントへの就労は不可
- 健康保険: 滞在期間をカバーする保険
滞在期間
最長1年。更新制度はないため、1年を超える場合は別の在留許可への切り替えが必要。
税務上の扱い
エストニアでの滞在が183日未満であれば、エストニアの税務居住者とはみなされず現地での課税はない。183日以上滞在する場合はエストニアでの納税義務が発生する可能性がある。
注意点
月収74万円は6ヶ国の中で最も高いハードル。IT系フリーランスや外資系リモートワーカーなど、すでに高い収入基盤がある人向けだ。エストニア自体はタリンの旧市街が美しく、IT環境も欧州トップクラスだが、冬が長く暗い(11月〜2月は日照時間が非常に短い)。夏季限定で滞在するノマドも多い。
UAE(ドバイ)Virtual Working Programme
——中東の税金ゼロ拠点
所得税ゼロのUAEで、海外企業のリモートワーカーとして合法的に滞在できる制度。ドバイの都市インフラ、治安、英語通用率の高さは世界トップクラスだ。
申請条件(2026年4月時点)
- 月収要件: $3,500/月(約54万円)以上。事業主の場合は$5,000/月+1年以上の事業実績
- 資金証明: 2026年1月より、6ヶ月分の連続した銀行明細書の提出が必須に変更
- 雇用形態: UAE国外の企業でのリモート雇用、フリーランス、または海外法人オーナー
- 健康保険: UAEでの医療をカバーする保険
滞在期間と費用
1年間有効、更新可能。申請費用は諸費用込みで約17万円(AED 4,615〜7,965)。更新時はAED 2,600〜3,700と初回より安くなる。処理期間は5〜7営業日と高速。
メリット
個人所得税がゼロ(ただし日本の税務居住者のままであれば日本側の課税は残る。後述の税務セクション参照)。処理が速い。都市インフラが整っており、コワーキングスペースも充実。
注意点
生活費が高い。ドバイの1人暮らしは月40〜60万円程度が目安で、東南アジアの3倍近い。収入に余裕がない段階で選ぶ場所ではない。また夏季(6〜9月)は気温50℃近くになり、屋外活動はほぼ不可能。季節で拠点を使い分けるノマドに向いている。
タイ DTV(Destination Thailand Visa)
——東南アジアの本命
2024年7月に開始されたタイのノマド向けビザ。月収要件ではなく預金残高で審査される点が特徴で、会社員を辞めたばかりの人やフリーランス初期の人にも門戸が開かれている。
申請条件(2026年4月時点)
- 預金要件: 50万THB(約215万円)以上の残高を、申請前の90日間以上連続で保持していること
- 年齢: 20歳以上
- 対象者: リモートワーカー、フリーランス、自営業者。「ワーケーション」カテゴリーで申請する場合はクライアント契約書やポートフォリオの提出が求められる
- 申請方法: タイ国外のタイ大使館/領事館またはe-Visaオンライン申請(タイ国内からの申請は不可)
滞在期間
1回の入国で180日間滞在可能。タイ国内の入国管理局で180日間の延長ができるため、最長で1年近い連続滞在が可能。ビザ自体は5年間有効で、期間内であれば何度でも入国できる(ただし出国するとその入国分の滞在許可はリセットされる)。
費用
申請料は$275〜$1,150(申請する国による)。延長手数料は฿1,900〜10,000。
家族帯同
配偶者および20歳未満の未婚の子どもを帯同可能。帯同家族の人数に制限はない。
注意点
DTVはあくまで特殊な観光ビザの一種であり、タイ国内の企業やクライアントへの就労は禁止されている。リモートで海外のクライアント/雇用主の仕事をする分には問題ない。また、タイに183日以上滞在すると税務居住者とみなされる可能性がある点にも注意。
インドネシア B211A
——バリ拠点の現実解
インドネシアには正式な「デジタルノマドビザ」はまだ存在しないが、B211Aビザ(訪問ビザ)がノマドの実質的な滞在手段として広く使われている。バリ島のチャングーやウブドは世界中のノマドが集まるホットスポットだ。
申請条件(2026年4月時点)
- 資金要件: $2,000以上の残高証明
- パスポート: 残存有効期間6ヶ月以上
- 雇用形態: 特に制限なし。ただしインドネシア国内の企業への就労は禁止
滞在期間
初回60日間。延長手続きにより最長180日(約6ヶ月)まで滞在可能。シングルエントリーのため、出国すると自動的にビザが失効する。
費用
申請料$50〜100程度。延長手続きは1回あたり$30〜50程度。6ヶ国の中で最も安い。
メリット
月収要件がなく、ハードルが最も低い。バリの生活費は月15〜20万円程度で、東南アジアの中でもコストパフォーマンスが高い。ノマドコミュニティが非常に活発で、コワーキングスペース(Dojo Bali、Outpost等)も充実。
注意点
B211Aは正式にはノマドビザではなく訪問ビザであり、制度上のグレーゾーンが残る。183日以上の滞在でインドネシアの税務居住者となる可能性がある。また、シングルエントリーのため、近隣国への短期旅行で出国すると再取得が必要になる。
「観光ビザで回す」という現実解
ここまで6ヶ国のノマドビザを見てきたが、正直に書く。ノマド初期の大半の人は、まず観光ビザ(ビザなし入国)で回している。これが現実だ。
日本のパスポートは世界最強クラスで、ビザなしで入国できる国が190ヶ国以上ある。多くの国で30〜90日間の観光滞在が認められており、滞在期限が来たら隣国に移動する、というパターンでノマド生活は成立する。
典型的な周遊パターン
- 東南アジア周回: タイ(60日)→ ベトナム(45日)→ マレーシア(90日)→ インドネシア(30日+延長)。半年〜1年をかけて1周する
- 欧州シェンゲン圏: シェンゲン圏内は「180日間で最大90日」のルール。90日滞在したら、シェンゲン圏外(イギリス、トルコ、ジョージア(トビリシ)等)で90日過ごし、再入国する。特にジョージアは日本人がビザなしで最長365日滞在可能で、シェンゲンの”休憩所”として事実上のノマドハブになっている
- 拠点+出入国: タイやマレーシアを拠点に、滞在期限前に近隣国へ1〜2日出国して再入国する(いわゆるビザラン)。ただし入国審査官の裁量で入国拒否される可能性があり、繰り返しは推奨しない
観光ビザ運用の限界
観光ビザで「仕事をしている」状態は、厳密には多くの国でグレーゾーンだ。現地企業に雇われているわけではなく、海外のクライアント/雇用主の仕事をPCで行っているだけ——この状態を取り締まる国はほぼないが、制度上は「就労」に該当する可能性がある。
だからこそ、収入が安定してきた段階で正式なノマドビザへの切り替えを検討するのが賢明だ。ノマドビザは「この国で合法的にリモートワークしていい」という明確なお墨付きになる。精神的な安心感も大きい。
現実的なステップ
最初は観光ビザで東南アジアを回りながら収入基盤を作る。月収が安定してきたら、長期滞在したい国のノマドビザを申請する。この順番で動けば、ビザは壁ではなくなる。
税務との関係——
「183日ルール」の誤解だけ正しておく
ビザの話をすると必ず出てくるのが「183日以上海外にいれば日本の非居住者になれる」という話だ。これは誤解。
日本の所得税法では、居住者か非居住者かは「住所」(生活の本拠)と「居所」(継続して1年以上住む場所)の総合判断で決まる(国税庁タックスアンサーNo.2012)。183日という単独の基準は日本の国内法には存在しない。住民票の有無、日本での収入源、家族の居住地、海外滞在の継続性など、複数の要素で個別に判断される。
一方、滞在先の国では「183日以上滞在すると税務居住者になる」というルールを持つ国が多い(エストニア、タイ、インドネシア等)。つまり、日本の非居住者になれないまま、滞在先の国でも課税されるという二重課税リスクが発生し得る。
税務の詳細はこの記事の範囲を超える。ただ一つ言えるのは、ノマド化を検討する段階で、国際税務に詳しい税理士への相談を入れておくべきということだ。「自分で完璧に把握してから動く」必要はない。専門家に投げる前提で、相談だけ先に済ませておけばいい。日本側の住民票・年金・国保の取り扱いと、税理士に相談する前に自分で整理しておくべき論点は海外ノマドの税金・住民票ガイド|“183日ルール”の誤解と、税理士に相談する前にやることにまとめたので、このビザ申請を検討するときに並行で確認してほしい。
まとめ——ビザは「調べたら意外といける」
6ヶ国のノマドビザを並べてみると、ハードルの幅は広い。エストニアの月74万円は確かに高いが、インドネシアB211Aは残高$2,000で取れるし、タイDTVも預金215万円を3ヶ月持っていればいい。月収20万円台からでも、東南アジアのビザは現実的に手が届く。
「ビザどうするの?」は海外ノマドを考え始めた人が最初に感じる不安の一つだ。でもこうして制度を並べてみると、思ったより道は整備されている。かつてのように「グレーゾーンで祈りながら滞在する」時代は終わりつつある。
ビザは仕事の次に来る。まずはリモートで収入を作ること。そのうえで、行きたい国のビザ制度に自分の収入を当てはめてみる。合致する国が見つかれば、あとは書類を揃えて申請するだけだ。
仕事の作り方については、海外で働ける仕事ランキング|ノマド前提で選ぶ6タイプ徹底比較で、会社員フルリモート転職からフリーランス、ストック型まで、再現性順に解説している。ビザの前に「何で稼ぐか」を固めたい人は、そちらから読んでほしい。会社員リモートで日系の月収を確保する道筋はリモート特化転職サイト徹底比較、フリーランスで海外クライアントも視野に入れるならUpwork日本人プロフィール戦略がそれぞれの実装編になる。タイDTVを使うなら、拠点候補としてチェンマイ・ノマド完全ガイドも合わせて読むと具体像が掴める。
ビザ申請時に必須要件となる医療保険(ポルトガルD8など)は海外ノマド保険ガイド|SafetyWingとクレカ付帯の違いに、申請書類の収入証明に関わる海外報酬の受取ルートはWise×Payoneer比較ガイドに整理した。出国前の最終チェックとして必要書類と持ち物の時系列は海外ノマドの持ち物リスト|最初の3ヶ月で本当に必要なものだけを合わせて確認してほしい。なお本記事の6ヶ国に加え、2025年1月に開始された台湾デジタルノマドビザ(2026年1月の更新で最大2年に延長)は台北 ノマド完全ガイドの第5章に要件と運用をまとめている。日本人ならビザ免除90日で即試せる利便性も含めて、東アジア拠点を検討する際に参照してほしい。